﻿【セーブナ・トール・テール　～ビリーとブレイブリードッグのおはなし～】


　むかしむかし……いや、そんな昔でもないな。ちょっと前のおはなし。
　ある晩の森の中、ひとりの旅人が焚き火を眺めて過ごしていました。
　するとその前に、数匹のブレイブリードッグ達が姿を現しました。

「やぁこんばんは、お客人。月も静かないい夜だね」
「やぁこんばんは、旅人さん」「なんだかとってもいい匂いだね」

　彼らは旅人が焼いていた獲物の肉を見て、うらやましそうにそう言います。

「このお肉が欲しいのかい？」
「欲しい！」「欲しい！」「ぜーんぶ欲しい！」
「とっても素直な子たちだね。だけどごめんよ、お肉はあまり多くないんだ」

　困ったような顔で言ったあと、旅人は先頭の子に提案しました。

「そうだ、こういうのはどうだろう。君たちの中でもっとも勇敢な子がこのお肉を勝ち取るってのは」
「それだ！」「勇敢！」「勇猛！」「ブレイブリー！」

　ブレイブリードッグ達がキャッキャと騒ぎ始めます。
　彼らにとって、群れの中で勇敢であることは何よりも大事なこと。

「それじゃあ、やる！」

　はりきった一頭がピョコンと前に出ると、旅人に銃を向けました。
　彼らはみんな銃を持っていて、自分よりも大きな生き物に立ち向かうのは最も手っ取り早い勇気の示し方なのです。
　ダーン！　と、雷が落ちたような音があたりに轟きました。
　銃を向けていたブレイブリードッグが、コテンと地面に倒れます。

「なるほど、彼はたしかに勇敢だった。だけどどうやら、お肉は他の子が食べることになりそうだ」

　いつの間にか構えていた銃を下ろしながら、旅人が言いました。
　先程の雷鳴は、旅人が先に撃った銃のものだったのです。
　あたりは一瞬しんと静まり、ブレイブリードッグ達の間に「どうする？」といった感じの空気が流れました。

「勇気の示し方ってのは、なにもひとつだけじゃないさ」

　肩をすくめて、旅人が言います。

「君達は普段、どんな風に勇敢さを競い合ってるの？」
「線路を切る！」「落とし穴！」「リボルバイソンを怒らせる！」
「ワオ、とってもブレイブリーだ。でも今ここじゃやれそうもないね」

　旅人はそう言うと、焚き火にふっと目を向けて、なにかを思いついたように言いました。

「たとえばそうだな、君たちの中に火の中で我慢比べをしたことのある者は？」

　ブレイブリードッグ達は顔を見合わせました。
　もちろん、みんな火の中に飛び込んだことなんてありません。危ないからです。
　でも、危ないということはスリリングで、エキサイティングで、そしてとってもブレイブリーなことのように思えました。
　そう考えるとなんだかいけそうな気がしてきて、ブレイブリードッグ達がソワソワし始めます。

「ルールは簡単、誰が一番長く火の熱さに耐えられるか。さて、いの一番に挑戦する勇者はどいつかな？」

　こんなことを言われて盛り上がらないブレイブリードッグはいません。
　自分が自分がと前に出ようとする他の連中を押しのけ、一匹の勇敢なるブレイブリードッグが焚き火の中へと飛び込みました。
　当然、燃えます。

「キューーーッ！」

　それでも数秒ばかり我慢したものの、熱さに耐えられなくなったブレイブリードッグはすぐさま火から飛び出して地面を転げ回りました。

「ヒューッ、ブレイブリー！」「イッツ・アメージング！」
「時間は……8秒か。すごい、まさかこんなに耐えられるなんて！　ちゃんと後で回復魔法をかけてあげるからね」

　心底驚いた、といった様子で旅人が彼を褒め称えます。
　その様子を見ていた他のブレイブリードッグ達も、彼の健闘に刺激されたのか、
　あるいは旅人が口にした「回復魔法」という言葉に安心したのかはわかりませんが、とにかくそこからはお祭り騒ぎでした。
　口々に雄叫びを上げて、火の中へ飛び込んでいくブレイブリードッグたち。
　16秒、20秒、36秒、38秒。
　どんどんタイムが更新され、焚き火の周りにはぐったりと倒れ込んだ挑戦者達が次々横たわっていきます。
　中には微動だにしない者もいましたが、彼らはみな一様にやりきった顔をしていました。
　それを悔しそうに眺めている、今や最も勇敢でなくなってしまった最初のブレイブリードッグ。
　彼に気付いた旅人が、その背中に優しく話しかけます。

「君が最初に挑戦した勇気を、僕は高く評価するよ。どうだい、皆一通り終わったようだし、もう一度チャレンジしてみるってのは？」
「ありがとう、旅人さん。でも、先に一度回復魔法をかけてくれませんか」
「うん？　ああごめんよ、それ嘘なんだ」

　えっ、という表情を浮かべたブレイブリードッグの首根っこを掴み上げると、旅人は彼を焚き火の中へと放り込みました。
　最後の一匹ははじめキューキュー鳴いていましたが、すぐにその声は香ばしい臭いに取って代わられました。

「銃で一匹、焚き火で二匹。我慢比べで三、四、五、六。しめて六匹、リボルバー。ああ、今日はなんていい夜なんだろう」

　そうして傍らに置いてあったお肉を再び火で炙りながら、旅人は上機嫌に鼻唄を歌うのでした。


　　＊　　＊　　＊


　とまぁ、そんな感じで旅人は見事、ブレイブリードッグ達を出し抜いたのでした。
　……え？　残酷だって？
　まぁ、たしかにそういう見方もあるかもね。でも先に銃を抜いたのは向こうだぜ？
　……わかった、ごめんよ。たしかにこういう話は悪趣味だったかもだ。
　君みたいな可愛い子には刺激が強かったらしい。
　言い訳じゃないけど、ここらじゃ酒のつまみに、こういう“トール・テール（ほら話）”をよくするんだよ。
　もちろん、ほんとはだーれも死んじゃいないぜ？　そう、嘘だよ、全部大嘘さ。
　だから安心して。
　次はもっと面白い話を仕入れてくるから、楽しみに待っててくれよ。
　
　それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。
　……ああそうだ、最後にひとつ聞いておきたいんだけど……。
　この街で、毛皮の買取をしてくれる店はどこなのかな？


